送別会

送別会があった。
乾杯の挨拶時以外にひとことも別れについての言及がない、妙な、というか限りなくただの飲み会に近い送別会だった。もしかしたら、この間まで特別整理期間だったので、その慰労会であったのかもしれない。
私はテーブルの端に座り、彼ら(実際には女性が多い職場なので彼女ら)の楽しげなおしゃべりをぼんやりと聞きながら麦酒を嘗めていたのだが、そこでようやく思い出した。
これは私を送別する会である。
目下のテーブルには自分で盛り付けたサラダと片付けられてない空いたグラスが切なく座っていて、本当はトマトも加えて彩りを良くしたかったのに、と思いながら緑と紫で単一化されたサラダに箸をつけた。噛み切るに苦労した。
彼女らの話題はどうやら胸の大きさに移ったようで、一人が身振りも混じえて説明すると、一人はコンプレックスをもっていると笑いながら語った。
私もその話し合いに加わりたい、と思ったがもちろん提供できる情報などなく、一人の仕草、つまり自身の胸を恥ずかしげもなくわし掴みにする様子に萎縮してしまい、もはや男性としての性別を否定された気になって店員を呼ぶボタン(このボタンの正式名称が知りたい)を押して麦酒のおかわりを頼もうとすると、
「カシスオレンジも一緒に頼んでおいて」
と同じテーブルの誰かの声がした。
同じことを何度も言って恐縮だが、これは私を送別する会である。
しかし、私はそれを我慢して、然るべき後、こう言うのだ。
「あ、カシスオレンジきましたよ」



本当は、送別会を開いてくれてありがとう、と書きたいだけなのに、今までの生き方で染み付いている何かが邪魔をして、私を素直にさせないのだ。
次の職場でこそは、がんばります!