屋久島旅行記・3 九州最南端の都

バスは鹿児島市内を抜け、その外れにある鹿児島港の前で停車しました。乗客はぼく一人になっていました。バスを降り、屋久島行きポートに向かい出港時間を確認し、少し時間があったので港内にある複合商業施設ドルフィンポートに立ち寄り、飲み物を買い、施設内にあるベンチに腰掛けて遠くに見える有名な活火山で知られる桜島(この当時ではリアルタイムな名称ですが)を眺めていると、ついさっきまで福岡にいた自分が気づけば鹿児島のベンチに腰掛けて、鹿児島の代名詞的な島を目の前にしているという事実が僕を揺さぶり、まるで瞬間移動したような、昨夜見た夢がまだ覚めてないような非現実的な感覚を覚えました。なんだか無性にビールが飲みたくなりましたが、買いに行く時間は残されていませんでした。ぼくが乗る予定の高速船が静かに調整する音が聴こえてきました。

 水中モーターの音が響き渡る船内、外観と違って年季の入った内装。以前は喫煙席もあったのだろう、ヤニの汚れやシミ、お世辞にもフカフカとは言えないシートにくすんだ色をしたカーテン。どれを取ってもローカルさが伝わってきました。従業員に着用を促されて窮屈な(僕には窮屈に感じられる)シートベルトを装着し、リクライニングの位置を調節しようとすると同時に高速船が大きな迂回をし、進み始めました。海が太陽の光を反射して、あたり一面が輝いていました。比較的、波は穏やかで揺れは少なく、乗り場で受付をしているお姉さんにわがままを言って二階席の窓際にしてもらい、窓の外に広がる海を眺めつつ、名もない作家の旅行記を読んでいました。ふと、船内に目を向けると、僕と同じ目的でしょうか、大きな荷物を脇に置いた旅行客とみられるグループが何組も座っていて、弁当を食べたり窓の外にカメラを向けたりと忙しそうでした。学生のグループらしき連中や、見た目からしバックパッカーな方々、定年後の余暇を楽しんでいそうな老夫婦など、様々な年齢、職業層の人たちがこれまた様々な思考、行動をしているようでした。
 また窓のほうに視線を戻すと鹿児島最南端の佐多岬が見えてきました。そしてそのまま僕の意識はまたもや暗い闇の中に滑り込んでいくのでした。