屋久島旅行記・4 ある男との出会い、集落としての人

エンジンの音がとまり、揺れは少なくなり船内が慌しくなりました。船が目的地に到着したのです。目を覚ました僕は、荷物を抱え、混みあう船内に負けないようしっかりと外に向かって歩いていきました。
 最初に出迎えたのは強い風でした。風は音を立て草木を揺らし波をもいっそう荒くし、僕のシャツの裾を激しく揺らしました。目の前では送迎バスやタクシーが並び、ガイドさんやタオルを巻いたおじさん・・タオルを巻いたおじさん?が、降りてきた大勢の観光客の中から自分の獲物、お客様を探していました。とりあえず僕は近くにあった島の観光センターに行きました。
 センターの中には人が数名いて皆、荷物を抱え、少し疲れている様子でした。今回の旅での移動は公共機関(屋久島ではバスを意味する)を使うつもりだったので、バスの時刻表を貰おうとカウンターのおばちゃんの所までいき、時刻表とその他資料を数枚頂きました。愛想のいいおばちゃんで屋久島の歩き方的な話や地元人しか知らないお勧めスポットの話などを聞かせていただき、礼を言って立ち去ろうとすると近くにいた男が話しかけてきました。
 男は僕より年上に見え、黒のナイロンジャケットにデニム、登山のためであろう少し泥の染みこんだトレッキングシューズを履いていた。荷物はとても多そうで、僕が持ってきた荷物の倍はありそうでした。(僕も数日分の荷物でかつ登山用の道具も持ってきていたので荷物の量はなかなかなものでした)
「登山ですか?」
「はい、今回が初の屋久島でもちろん初登山なんです」
いきなりのことだったので、僕は少し戸惑いながら答えました。
男は坂田という名で、埼玉からの旅行客、仕事の休みを利用して一人旅をしていて屋久島には何度か訪れており登山もしたことがあるとのことでした。
「今回は山中泊しようと思っています。実は前回もそのつもりだったのですが少しトラブルがあってできなくて、それが悔しくてまた来てしまったんですよ。」
なるほど、道理で荷物が多いはずだ。と思いました。しかし、山中泊のコースとなると登山ルートを見る限りそうとう険しい道を通ることになり、上級者コースと書かれてあった。「すごいですね、僕なんて日帰りコースさえも登りきることが出来るか心配なのに」
僕が言うと坂田は「大丈夫、心配しなくてもしっかり準備さえしておけば楽勝ですよ」と、その大きな荷物を抱えなおしながら言いました。
「宿はどちらで?」
「僕は安房のほうの民宿を取ってあります。坂田さんはどちらですか?」
「私は宮之浦の民宿です。」
宮之浦は屋久島では北に位置していて、島の入口として栄えており民宿やホテルもたくさんあるので、多くの旅行客が旅の拠点として利用している場所とガイドブックには書いてありました。(僕がさっき降りた港も宮之浦です)
僕が宿泊する予定の安房屋久島の東のあり、宮之浦から海沿いに車を走らせて40分くらいのとこにあり、こちらも屋久島では宮之浦に次ぐ大きな集落となっています。
 坂田さんと別れ、観光センターを出て、安房行きのバス停まで歩きました。しかし、そこは田舎ならではのバス時間。安房行きのバスは一時間に一本しか出ておらず、そのバスも先ほど出たばかりでした。都会暮らしが長い人にとってはビックリなことかも知れませんが、田舎のバスやローカル線では多々あることで、僕の故郷である天草でもバスは一時間に一本でした。たいてい、この場合ベンチに腰掛けて空でも見ながらゆっくりバスを待つのが田舎スタイルなのですが、まぁ旅行のときは別で折角だからと宮之浦を散策がてらちょっと先のバス停から乗ろうと思いました。観光センターで貰った屋久島マップを見る限りバス停も近そうでしたし、あれだったら安房まで歩くのも楽しいだろうなと考え、僕は軽快なステップで歩き始めました。(後にわかることなのですが、このときの僕の選択は間違いでした)