西からの太陽

遅い。本当に遅い。
僕は何度も時計を見る。待ち合わせが2時で今が3時32分だから、僕は約一時間半も待たされてることになる。いい加減、煙草も吸い飽きた。風が含む冷気にも耐え難くなってきた。

思えば、いつもこうだ。あいつは自分から呼び出すくせに、必ず遅れてくる。
しかも分単位の遅刻なんかじゃない。
最初のほうは、
「時計が〜」とか、「家の鍵が〜」とか、その場しのぎなりにも言い訳を言っていたんだが、(もちろんまともな言い訳は一つもなかった。)最近は言い訳すらしない。ただ、「ワリィ」の一言で、もう次の話題について話し始めている。

僕は彼について考える。

彼にとって時間という概念は、彼を形作る要素の中では、すごく下位のほうにあるのだろう。
それが、形となり、今こうして僕が被害を被っているのだ。

しかし、僕を形作る要素のなかでは時間の概念は上位にあり、ときとしては絶対的権力、あるいは圧力として僕を動かす。

僕のなかの時間の概念が言う。


「あいつはクソだ。わかるだろ?お前はあいつのために世界で一番貴重な、時間という遺産をどんどん浪費しているんだ。浪費の先に何があると思う?
死だ。
お前はこのままあいつを待ち続け、そのまま朽ち果ててちまうんだ。」

オーケーわかった。時間の概念が言うとおりだ。もうやめよう。待たないでおこう。帰ろう。
頭の中であいつの顔がどんどん憎たらしくなってくるのがわかる。
許せるはずがない。
僕はゆっくりと一歩、足を前に出す。二歩目には迷いはなかった。三歩、四歩、五歩。ちょうど六歩目を踏み出そうとしたとき、
西陽が差した。
西陽は街路樹の色を変え、アスファルトの色を変えた。まるで世界が塗り替えられたかのように、僕の周りの色が、色が輝きを放つ。僕を包むように。

そうか、色彩は太陽の下にあるのだ。青は太陽の下で青になり、緑もまた太陽の下で緑となるのだ。


僕はもう少しだけ待つことにした。