ピーコート
おい、聞いてるのか。おまえだよ、おまえ!!おい、ピーコート。
全然ダメじゃないか。もう本当にダメじゃないか。
洗濯機に廻されたか?
表面はダラダラ、裏地はボロボロ。ステッチは切れて、エリは折り曲がってる。あげく、碇マークのボタンも一つしか残ってない。
自慢の紺色は日焼けしていて、所々ムラになっている。
一見それは本当にピーコートなのか、と疑うくらい酷いピーコートだ。
僕はピーコートを蹴り飛ばす。ピーコートの碇ボタンは今にもちぎれそうになりながら耐えている。
僕は続ける。
おい、言ってみろ。ピーコートのピーコート的役割を言ってみろ。そうだよ、存在意義だよ。あん?わからない?違うだろ。わかるけどできないんだろう。
お前にできるのか?
お前に俺の防寒着になることができるのかって聞いてるんだよ。お前のその因れた汚いウールなんて虫も喰いやしねぇ。ましてや、ボロボロになった袖口や裾を見るだけで吐き気がするね。悪臭もする。養豚場のほうがまだマシな匂いがするぜ。
そういって僕は花瓶の水を花瓶ごとピーコートに投げつける。表面を覆うウールはびしょびしょになる。
僕の怒りは一向に治まらない。
ピーは飾りか?お前のピーは飾りなのか?なんの役にも立ちやしねぇ。
僕は怒りのあまり、訳のわからないことを口走る。
そもそも怒りの理由さえわからない。
とうとう僕はピーコートのソデを切り刻む。
ピーコートは悲鳴に似た振動を残す。
あぁ僕はピーコートを殺すだろうと思う。
僕はこのままではピーコートを殺してしまうだろう。